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教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜第8回「単花蜜を採るのは難しい? 」
この連載について
皆さんは「はちみつ」と聞くとどんなイメージを持たれるでしょうか?
売り場に行くと、沢山の種類のはちみつがありますが、その奥にある「はちみつが生まれるまでの物語」を覗くと、そこには草木とミツバチと人が織りなす不思議で面白い世界が広がっています。
そこで、この連載では、あなたのはちみつ選びがより楽しく豊かになるよう、会津の豊かな野山を舞台に80年以上に渡り養蜂を続ける、松本養蜂総本場(まつもとようほうそうほんじょう)の代表であり蜂場主、松本高明さんに奥深きはちみつづくりのお話をお聞きしていきたいと思います(記事内では「タカアキ先生」として登場していただきます)。
聞き手は、“沼にハマりがちライター”の「ぬまる」が務めます。毎回、女将の松本彩子さんにもはちみつのオススメレシピをご紹介いただきますので、どうぞ最後までお読みくださいね。
教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜
第8回「単花蜜を採るのは難しい? 」
ぬまる


チャオ!タカアキ先生!あれ?今日は少しお疲れですか?

タカアキ先生


ぬまるくん、チャオ〜。おっと、大したことはないんだけど、採蜜の時期は何かと忙しいからね。顔に出てしまったかな。

ぬまる


そうでしたか。前回、タカアキ先生が手間を惜しまず、ミツバチを大切に育てていることを聞いたばかりなので、根を詰めすぎていないか心配です。

タカアキ先生


ありがとう、ぬまるくん。でも大丈夫!美味しいはちみつのためならなんてことないさ。でも、せっかくだから今回は、採蜜にまつわる仕事について話そうかな。

ぬまる


はい、ぜひお願いします!

花の蜜を混ぜない工夫とワザ

タカアキ先生


さて、ぬまるくん。うちの養蜂場のはちみつの特徴を覚えているかな?

ぬまる


はい!会津の植生を生かした「単花蜜」ですよね。

タカアキ先生

その通り。会津は蜜源樹に恵まれた土地だから、樹木ごとのはちみつを集めているんだ。でも、樹木ごとのはちみつといっても、もちろん木から直接採れるわけじゃない。ミツバチたちに花の蜜を採り分けてもらわないといけないんだよね。
単花蜜を集めるにはいろいろな工夫が必要だし、より純粋なものを求めればその分、経験や手間を惜しまないことが大切になるんだよ。

ぬまる

なるほど。ミツバチが好きなように飛び回っていたら、花の蜜が混ざってしまいそうですよね。ミツバチに言い聞かせるわけにもいかないし……。どうやってコントロールしているんですか?

タカアキ先生


ふっふっふ。実はミツバチと話せる能力もあったりして。

ぬまる


もう!焦らさないで教えてくださいよ〜。

タカアキ先生

ごめんごめん(笑)僕たち養蜂家の知識や感覚が問われる部分だけに、一言では言えないんだ。順番に話していくね。まず大切なのは、ミツバチの巣箱をいつ、どこに置くかということ。ぬまるくんだったらどうするか、ちょっと考えてみて。

ぬまる


そうですね…。目当ての蜜を吹く樹木の花が多く咲く時期に、それらが多く生えている場所ですかね。

タカアキ先生

大正解!ミツバチは良い蜜源を見つけると仲間に知らせて、その蜜を取り尽くすまでみんなで通い続ける習性があんだ。だから、採りたいはちみつの蜜源樹がたくさんあって、それがしっかり咲く時期に巣箱を置くことで、他の花の蜜が混ざることを避けるんだよ。

ぬまる


へぇ?!ミツバチ同士でコミュニケーションを取っているんですね!賢いなあ。でも、そんなぴったりな場所を見つけるのも、花が咲く時期を見極めるのも、どちらも難しそうです。

タカアキ先生

そうだね、こればっかりは自分たちの目で確かめていくしかないからね。
ただ、巣箱を置く場所を毎年変えているってことでもないんだ。代々受け継いで、50年以上巣箱を置き続けている場所もあるんだよ。自然の状態は日々変化するから、常に新しい置き場所を探しながら仕事をしているけどね。

ぬまる


なるほど〜。ところで、巣箱を置いたら後は待っていればいいんですか?

タカアキ先生


そうだったら楽なんだけどね。毎日複数か所ずつ様子を見て回っているよ。

ぬまる


毎日ですか?!

タカアキ先生

そうだよ。現場で花や花粉の状態、巣箱のはちみつの集まり具合なんかを見て、一番良いタイミングで採蜜するんだ。早すぎると完熟したはちみつが採れないし、遅くなれば、次に咲き始めた花の蜜が混ざってしまうからね。

ぬまる


なるほど、自然の変化を敏感に感じ取る必要があるってことかぁ…。家でじっと待っているだけでは分からないですね。

タカアキ先生


それから、僕たちの養蜂場では、より純粋なはちみつを集めるために巣箱にある工夫をしているんだけど、それには日々巣箱を見て回ることが欠かせないんだよ。

ぬまる


巣箱の工夫ですか?

タカアキ先生

うん。養蜂では、ミツバチが増えてくると巣箱に継箱を重ねていくんだけど、その時に「隔王板」という格子状の板を使っているんだ。隔王板は、女王蜂がいる巣箱と継箱の間に入れて、働きバチだけが通れるようにするものなんだよ。

ぬまる


へえ〜。文字通り、女王を隔離するってことですね。どうしてそんなことをする必要があるんですか?

タカアキ先生

女王蜂が他の継箱に行けないようにすると、産卵する場所が1か所になるだろう? そうすると、産卵される巣箱以外は全部、はちみつだけが集まっていくんだ。採蜜する時に幼虫やサナギがはちみつに混ざることがないから、純度の高いはちみつになるんだよ。

ぬまる


なるほど。子育ての部屋と貯蔵の部屋を分けるってことですね!でも、その隔王板を使うことと、日々の見回りと、どう関係するんでしょうか。

タカアキ先生


隔王板を使って女王蜂が移動できなくなると、産卵スペースが日々狭くなっていくよね。そうすると、「巣分かれ」といって、女王蜂が働きバチを連れて巣を出ていってしまうんだ。

ぬまる


あっ!前回もそのお話がありましたね!

タカアキ先生

そうそう!巣分かれを防ぐには、巣箱の中をこまめに点検しないといけないんだ。 具体的には、「王台(おうだい)」という新しい女王蜂の部屋が作られている様子があったら、それを取り除くんだよ。

ぬまる


見落とさないように点検していくのはすごく大変そうですね。

タカアキ先生

そうだね。隔王板を使うと巣分かれのリスクも高くなるし、手間もかかるから、使うかどうかは養蜂家次第。それでも僕たちは、純粋なはちみつを追求するために、隔王板は欠かせないと考えているんだよ。

はちみつの純粋性を極める

ぬまる


タカアキ先生、お話の中で何度か出てきた、“純粋”なはちみつについて、もっと詳しく教えてください!

タカアキ先生

もちろん!さっき、僕たちの養蜂場のはちみつの特徴は「会津の植生を生かした単花蜜」と説明したよね。でも、それははちみつの性格的な特徴。味の特徴は、こだわり抜いたはちみつの純粋性にあると考えているんだ。

ぬまる


なるほど。つまり、松本養蜂のはちみつの美味しさの秘訣ですね!

タカアキ先生

そういうこと!だから商品として販売するまでには、蜜を集める段階での工夫以外にも、純粋性を極めるためにさまざまな工程を踏んでいるんだよ。たとえば、採蜜の段階ではまず、巣枠の色をチェックするんだ。

ぬまる


色、ですか?

タカアキ先生


狙っている樹木のはちみつがきちんと集まっているかどうか、巣枠の色を見れば大体判断できるんだよ。花蜜の色には特徴があるからね。

ぬまる


たしかに、単花蜜はそれぞれ色が濃かったり薄かったり、個性がありますよね!

タカアキ先生


うん。その時点で明らかに違う蜜が混じっている巣枠はその時点で抜いてしまうんだ。それで、色がOKなら今度は1枚1枚、匂いや味を確認していくんだよ。

養蜂場でテイスティングをしている様子
ぬまる


え〜!1枚ずつ?!

タカアキ先生

驚くのはまだ早いよ!僕たちは現場だけじゃなくて、巣枠を持ち帰ってからと、最終的に瓶詰めをする前、と何度もテイスティングをしているんだ。1日に200回以上テイスティングをすることもあるんだよ。

ぬまる


うわぁ。そんなに味見をしたら、僕なら混乱しちゃいそうです(笑)そもそも、それぞれのはちみつの味を正確に判断するのもすごい技術ですよね。

タカアキ先生

味覚に関しては経験の積み重ねだね。でも、実はこの味覚も年齢とともに衰えていくものだから、若い人を育てて引き継いでいくこともすごく大切。高齢化が進んでいるから、これは日本の養蜂全体の課題でもあるんだよ。このことはまた後日話そうね。

ぬまる


なるほど…。誰にでもできる仕事じゃないですもんね。

タカアキ先生

そうだね。でも、技術と同じくらい大切なのは、自分たちができることを地道に、愚直にやっていくことだよ。言葉にすると当たり前のことでも、実際に行動するのはむずかしいことってあるよね。
たとえば僕たちは、はちみつを採り終えた巣枠を巣箱に戻す時、綺麗にしてから戻すようにしているんだよ。そうすれば、巣枠に残った蜜が次に集められる蜜と混ざることがないからね。

ぬまる


それこそ手間を惜しまないってことですね!

タカアキ先生


うん。まあ、今日みたいに疲れが出ちゃう時もあるんだけど(笑)でも、そこまでやってはじめて、花ごとの味や色の違いを際立たせられるんだよ。

ぬまる


ちなみに、テイスティングで弾かれたはちみつはどうなるんですか?

タカアキ先生


場合によるけど、昨年(2023年)は結果的に「百花蜜」になったはちみつがすごく美味しくて、『プレミアム100』という名前をつけて販売したよ!

ぬまる


あっ!百花蜜の存在をすっかり忘れていました!

タカアキ先生

単花蜜も百花蜜も、それぞれの良さがあるからね。僕たちの養蜂場のはちみつを楽しみにしてくれる人には、混じり気がなく純粋なものを届けたいと思っているけど、自然は時に予想外の喜びをもたらしてくれるものさ。

ぬまる


いや〜、はちみつは本当に奥が深いですね。

タカアキ先生


ときに、ぬまるくん。ミツバチの巣の奥には、はちみつの他にも自然の神秘と恵みがいっぱいなんだよ。次回は、ローヤルゼリーやプロポリスの話をしようか。

ぬまる


これまた“特別なはちみつ”のお話ですね!ますますミツバチとはちみつの沼にはまってしまいそうです。また次回も楽しみにしています!

女将のはちみつレシピ

彩子さん


ぬまるさん、取材お疲れ様です。おやつはいかがですか?

ぬまる


ありがたくいただきたいところなんですが、この暑さで食欲がなくて…。

彩子さん


ではさっぱりしたはちみつレモンゼリーはいかがですか?冷蔵庫でしっかり冷えてますよ♪

ぬまる


冷たいゼリー?それなら食べたいかも…!

彩子さん


では用意しますね!少しお待ちください。

はちみつレモンゼリー

■材料(カップ2個分)
レモン果汁 大さじ2
はちみつ 大さじ3
水 250ml
ゼラチン粉末 5g
水(ゼラチンをふやかす用) 大さじ2
レモン(いちょう切り) 2枚

■作り方
1.ゼラチン粉末を水大さじ2の水で10分ほどふやかす。
2.鍋に水、砂糖、はちみつを入れ、沸騰しない程度に弱火で加熱し、火を止める。
3.粗熱がとれたら、1を入れて溶かす。さらにレモン果汁も加えて混ぜる。
4.カップに流し込み、いちょう切りにしたレモンを浮かべる。
5.冷蔵庫で4〜5時間冷やし固める。

ぬまる


さっぱりして美味しい!暑い夏にぴったりですね!

彩子さん


食欲なくてもつるんと食べられちゃいますよね。私も一緒にいただきます♪

ぬまる


子ども大人もおいしいゼリーですね。うちでも作ってみたいな。

彩子さん


簡単に作れるのでぜひ作ってみてくださいね!

こちらのレシピはInstagramで連載中の「お料理ビギナー女将の簡単ごちそうレシピ」でも紹介しています!
お料理ビギナー女将の簡単ごちそうレシピ
教えて!タカアキ先生
発行:松本養蜂総本場
語り・監修:松本高明
文章・撮影:貝沼航
レシピ・文章:松本彩子
イラスト:むらやまちかこ
教えてタカアキ先生!連載一覧

第1回「どうして蜂が蜜を作るの?」
第2回「はちみつを採るのはかわいそう?」
第3回「ミツバチがいなくなると世界は滅ぶって本当?」
第4回「養蜂っていつからあるの?」
第5回「今、養蜂家が存続の危機って本当ですか?」
第6回「どうして会津で養蜂をしているの?」
第7回「どうして松本養蜂のミツバチは健康なの?」
第8回「単花蜜を採るのは難しい? 」(現在のページ)