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教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜第7回「どうして松本養蜂のミツバチは健康なの?」
この連載について
皆さんは「はちみつ」と聞くとどんなイメージを持たれるでしょうか?
売り場に行くと、沢山の種類のはちみつがありますが、その奥にある「はちみつが生まれるまでの物語」を覗くと、そこには草木とミツバチと人が織りなす不思議で面白い世界が広がっています。
そこで、この連載では、あなたのはちみつ選びがより楽しく豊かになるよう、会津の豊かな野山を舞台に80年以上に渡り養蜂を続ける、松本養蜂総本場(まつもとようほうそうほんじょう)の代表であり蜂場主、松本高明さんに奥深きはちみつづくりのお話をお聞きしていきたいと思います(記事内では「タカアキ先生」として登場していただきます)。
聞き手は、“沼にハマりがちライター”の「ぬまる」が務めます。毎回、女将の松本彩子さんにもはちみつのオススメレシピをご紹介いただきますので、どうぞ最後までお読みくださいね。
教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜
第7回「どうして松本養蜂のミツバチは健康なの?」
ぬまる


タカアキ先生!チャオ〜!今日は晴れた天気で気持ちが良いですね。

タカアキ先生


チャオ!ぬまるくん。本当にね!ミツバチも元気に飛び回っているんじゃないかな。

ぬまる


前回、元気なミツバチは美味しいはちみつに欠かせない、と教えてもらったのを思い出します!

タカアキ先生


覚えていてくれて嬉しいよ。今日はそんな話をするにはぴったりの日だね。早速始めようか。

ぬまる


よろしくお願いします!

80年繋がる松本養蜂のミツバチ

ぬまる


ずっと気になっていたんですけど、そもそも養蜂場のミツバチは「飼う」って表現で正しいんでしょうか?自然のミツバチではないですよね。

タカアキ先生


そうだね、養蜂家のことを「蜂飼い」とも呼ぶように、僕たちは巣箱を置いて、そこでミツバチを飼っているんだよ。牛飼いや羊飼いをイメージしてみると分かりやすいかな。

ぬまる


なるほど!自由に飛び回っていても、ちゃんと“所属”があるんですね!

タカアキ先生

さすがに一匹ずつ把握するのは無理だけどね(笑)養蜂は畜産業の一つに分類されていて、ミツバチを飼育する時には、巣箱を置く場所とその群数を家畜衛生保健所に届け出る義務があるんだ。

ぬまる


へぇ〜!それは知りませんでした。養蜂家ってはちみつを採ることが仕事のようですけど、ミツバチを育てるところから始まっているんですね。

タカアキ先生


そうそう。あたりまえのことなんだけど、意外と知られていないかもしれないね。

ぬまる


タカアキ先生の養蜂場は80年以上の歴史があるんですよね。今活躍しているミツバチは、最初に飼い始めたミツバチの子孫なんですか?

タカアキ先生

厳密に証明できるかと言ったら難しいけれど、ずっと繋がっている子孫はいるはずだよ。
というのは、たとえ大事に育てていても、病気や天候、天災などどうにもできない大きな環境の変化で個体数が激減してしまったこともあったらしいんだ。だから時には、異なる遺伝子を持つ個体と意図的に交配してミツバチの多様性を強化したりしながら今日まで養蜂を続けてきているんだよ。

松本養蜂総本場のミツバチたち
松本養蜂総本場のミツバチたち
ぬまる

なるほど〜。なんだか老舗の焼き鳥屋の秘伝のタレみたいですね!途中で壺をひっくり返しちゃうようなハプニングがあったとしても、営みとして続けてきたことには変わりないというか…。

タカアキ先生


ははは、たしかにそうかもしれないね!遺伝子の繋がりもそうだけど、僕たちが丹精を込めて育て続けてきたことはぜひ知ってもらいたいな。

ぬまる


大切に育てていると、我が子を見るような気持ちになりそうですね。

タカアキ先生

自慢の我が子だよ!大切にするから可愛いし、可愛いから大切に育てるんだ。
僕たちの養蜂場では、はちみつを採る作業に時間をかけて、なるべく一匹も潰してしまわないようにしているんだよ。

ぬまる


ミツバチもそれぞれの命を生きていますもんね。小さくて数が多いからといって、雑に考えちゃだめですね。

タカアキ先生

そうだね。でも、実は仕事の効率を図る上でも意味があるんだよ。例えば、巣枠を動かす時に手を滑らせてしまうと、ミツバチは攻撃されたと思って刺してくるんだ。指先を刺されると痛くて熱くて、とてもじゃないけど作業にならない。それは最大の損失だから、丁寧にすることは仕事の上でも大事ってこと。

ぬまる


なるほど〜!

巣枠の出し入れ
巣枠を出し入れする時は、静かに丁寧に扱う
タカアキ先生


ちなみに、不思議なんだけど、ミツバチはだんだん飼い主と波長があってくるんだ。僕が飼っているミツバチは僕に似て、イタリア〜ン!だよ!

ぬまる


えっ……?

タカアキ先生


もちろん冗談だよ(笑)でも、飼い主の波長と合うというのは本当。丁寧に扱っているから、うちのミツバチはみんな大人しいよ。

ぬまる


急にびっくりしちゃいましたよ〜!たしかに、すごく不思議だけど、ミツバチも生き物だから納得できる気もします。

タカアキ先生

うちのミツバチがイタリアンっていうも、ある意味嘘じゃないけどね。
僕らの先代たちが養蜂を始めた頃から飼われていたのは、セイヨウミツバチ種の中のイタリアンという亜種なんだ。人間が扱うミツバチの中で最もおとなしい性格の一つだと考えられていて、ヨーロッパから世界中に広がっていったと言われているよ。

ぬまる


えーー!それで、今はイタリア帰りのタカアキ先生が蜂場主かぁ。インクレディービレ(信じられない)!

ミツバチを愛でる養蜂家

健康なミツバチが集める、美味しいはちみつ

タカアキ先生


さて、ぬまるくん。僕たちの養蜂場のミツバチのことを知ってもらったところで、クエスチョン。我が社の社是を知ってるかな?

ぬまる


はい、もちろん!「ミツバチの健康は私たちの健康」ですよね!

タカアキ先生


ベニッシモ!素晴らしい〜!では、その意味を話していこうと思うんだけど、そもそも“健康”なミツバチというのは、どういう状態のことだと思う?

ぬまる


えーっと、ストレスなく飛び回っているとか、長生きするとかですかね。あらためて考えてみるとよく分からないな…。

タカアキ先生


ふむふむ。たしかに、それは一つの正解。でも養蜂家は、各個体だけじゃなく、コロニー(群)としても健康で元気な状態を目指しているんだよ。

ぬまる


元気なコロニー、ですか。それで言うと、働きバチがたくさんいて、栄えている状態…かな。

タカアキ先生

お!ぬまるくんはやっぱり筋がいいなあ。まさに、コロニーの元気さは、ミツバチの数の多さや、健全な世代交代が行われているかというところにあるんだよ。 ミツバチの寿命は短くて、女王蜂は3年ほど生きるんだけど、働きバチは約1ヶ月(冬季は約6ヶ月)ほどしか生きられないんだ。だから、僕たちはミツバチの“健康”を、「個体」としてだけでなく、より長く「世代」に渡って見ているんだよ。

ぬまる

そうか、一匹一匹の元気さが、コロニーの元気さにも繋がっていくということですね! でも、どんなことに気をつけて育てているんですか?言葉にするのは簡単ですけど、そう上手くできることじゃないですよね。

タカアキ先生

難しく考えることはないよ。人間も動物も虫も、同じ生き物として、思いやりを持って育てることだよ。例えば、餌になる花蜜や水を得やすい場所に巣箱を置いたり、巣箱を移動する時にはストレスをかけないように運んだりね。
それから、日差しが強い時は暑くなりすぎないように防いだり、ということもあるかな。 逆に、会津の冬は寒いから房総半島で越冬させるんだけど、そこでも除草剤や農薬にさらされないような場所を選んだり、薬剤に頼らない養蜂を目指しているよ。

松本養蜂総本場のこだわりが詰まった「有機」養蜂
松本養蜂総本場のこだわりが詰まった「有機」養蜂
ぬまる


さらっと言いますけど、僕からしたらすごく大変なことばかりですよ…!

タカアキ先生

毎日の仕事だからね(笑)うちの養蜂場は歴史が長いから、ミツバチにとって良い環境を経験的に知っているし、それがきちんと実現できる「場所や人とのつながりの積み重ね」があるということも大きいかもしれない。それに、美味しいはちみつに元気なミツバチが欠かせないとなれば、手を抜くことはできないよね。

ぬまる


その、健康なミツバチが美味しいはちみつに関係するというのは、感覚的には理解できるんですけど……なんというか、具体的にはどう変わってくるのかなって。

タカアキ先生


まあまあ、そう焦らないで。第1回で話した、ミツバチがはちみつを作る方法は覚えているかな?

ぬまる

はい!ミツバチは集めてきた花蜜をハニカム(八角形の巣の穴)の中に貯蔵して、水分を飛ばしていくんですよね。それで、ハニカムが一杯になったら蜜ろうでフタがされて保存されます。

タカアキ先生


その通り。花蜜を集めて、濃縮と熟成をしていくことで、美味しいはちみつができるんだよね。ここで重要なポイントは、ミツバチの役割は日齢によって変わっていくってこと。

ぬまる


ミツバチの仕事は、生まれてから死ぬまで、日によって違うということですか?

タカアキ先生

いかにも。働き蜂は、成虫になってから最初のうちは、巣のお掃除をしたり、幼虫のお世話をしたり、巣の中で蜜の水分を蒸発させたりするんだけど、だんだん日数が経ってくると巣の門番までするようになり、最後には花蜜を集めるためにようやく巣箱の外へ飛び立つようになるんだ。

巣箱と沢山のミツバチたち"
沢山のミツバチたちが、巣の中で様々な役割をこなす
ぬまる


1ヶ月の寿命のうちに日にちごとに役割が変わっていくなんて、ミツバチって本当に面白いですね。

タカアキ先生

そうだよね〜。そして、そういった「役割の循環」が常に健全に保たれていないと美味しい蜂蜜が出来上がってこないんだ。つまり、さまざまな日齢のミツバチがバランスよくいるということなんだけど、そのために必要なのは…?

ぬまる


あっ!健全な世代交代ですね!!

タカアキ先生


ビンゴ!つまり、たくさんのミツバチがいて、健全な世代交代ができている元気なコロニーでは、美味しいはちみつが作られるサイクルがきちんと機能しているってことなんだよ。

ぬまる

なるほど!繋がってきました!ミツバチの健康とはちみつの美味しさは、はちみつが作られる仕組みに深く関係しているんですね。ミツバチが元気でその数が多ければ多いほど、花蜜を集めるパワーもありそうです!

タカアキ先生

そういうこと!ただ、あまりにも数が増えると女王蜂が働きバチを連れて巣を出ていってしまうんだ。だから、巣の中の状態を日々きちんと把握して「巣分かれ」を防ぐことも、コロニーを元気な状態にしておくために大切な仕事なんだよ。この仕事は、うちの養蜂場のはちみつの特徴のひとつ、「純粋性」とも関係があるから、また次回ゆっくり話そう。

ぬまる

ミツバチを育てるのも、美味しいはちみつを採るのも、地道な積み重ねがあってこそなんですね。今回もすごく勉強になりました!そして、「ミツバチの健康は私たちの健康」という社是の意味も、またひとつ深く理解することが出来ました!

タカアキ先生


ミツバチが一生をかけて集めるはちみつを頂くからには、僕たちも手間を惜しまず、こつこつ仕事をしていかないとね!それじゃあ、また次回!

女将のはちみつレシピ

彩子さん


ぬまるさん、取材お疲れ様です!

ぬまる


いやー、今日もとっても勉強になりました!頭をフル回転させたからけっこう疲れちゃいました。

彩子さん


ホントにお疲れみたいですね。もう12時過ぎですけど昼食はまだですよね?

ぬまる


はい…もうお腹ペコペコで…!!

彩子さん


ではパパっと作っちゃいます!

ぬまる


いいんですか!?やったー!!

はちみつだれのスタミナ丼

■材料(1人分)
豚バラスライス 100g
ごはん 200g
サラダ油 大さじ1
<たれ>
すりおろしにんにく 小さじ1
酒 大さじ1
みりん 大さじ1
しょうゆ 大さじ1
はちみつ 大さじ1
卵黄(お好みで) 1個

■作り方
1.豚バラを一口大に切る。
2.フライパンを中火で熱し、サラダ油を入れる。
3.豚バラをほぐしながら入れ、両面焼く。
4.たれの材料を全て入れ、豚バラに絡める。
5.水気が減ってきたら、ごはんにのせて完成!お好みで卵黄を乗せる。

ぬまる


甘辛のタレでごはんがすすむ!はちみつって料理にも使えるんですね!

彩子さん


もちろんです♪甘味料の代わりにぜひはちみつを使ってみてくださいね。

ぬまる


卵黄を混ぜて食べるとスタミナたっぷりって感じです!

彩子さん

ビタミンB1を豊富に含んだ豚肉で夏バテ解消!はちみつのブドウ糖でエネルギーチャージも期待できますよ。

こちらのレシピはInstagramで連載中の「お料理ビギナー女将の簡単ごちそうレシピ」でも紹介しています!
お料理ビギナー女将の簡単ごちそうレシピ
教えて!タカアキ先生
発行:松本養蜂総本場
語り・監修:松本高明
文章・撮影:貝沼航
レシピ・文章:松本彩子
イラスト:むらやまちかこ
教えてタカアキ先生!連載一覧

第1回「どうして蜂が蜜を作るの?」
第2回「はちみつを採るのはかわいそう?」
第3回「ミツバチがいなくなると世界は滅ぶって本当?」
第4回「養蜂っていつからあるの?」
第5回「今、養蜂家が存続の危機って本当ですか?」
第6回「どうして会津で養蜂をしているの?」
第7回「どうして松本養蜂のミツバチは健康なの?」(現在のページ)
第8回「単花蜜を採るのは難しい? 」