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教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜第5回「今、養蜂家が存続の危機って本当ですか?」
この連載について
皆さんは「はちみつ」と聞くとどんなイメージを持たれるでしょうか?
売り場に行くと、沢山の種類のはちみつがありますが、その奥にある「はちみつが生まれるまでの物語」を覗くと、そこには草木とミツバチと人が織りなす不思議で面白い世界が広がっています。
そこで、この連載では、あなたのはちみつ選びがより楽しく豊かになるよう、会津の豊かな野山を舞台に80年以上に渡り養蜂を続ける、松本養蜂総本場(まつもとようほうそうほんじょう)の代表であり蜂場主、松本高明さんに奥深きはちみつづくりのお話をお聞きしていきたいと思います(記事内では「タカアキ先生」として登場していただきます)。
聞き手は、“沼にハマりがちライター”の「ぬまる」が務めます。毎回、女将の松本彩子さんにもはちみつのオススメレシピをご紹介いただきますので、どうぞ最後までお読みくださいね。
教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜
第5回「今、養蜂家が存続の危機って本当ですか?」
ぬまる


タカアキ先生、チャオ!

タカアキ先生


チャオ!ぬまるくん。今日は一段と真剣な顔をしているね。

ぬまる

わかりますか?
実は前回、「ミツバチは何千年も人間と共存してきた」というお話を聞いてから、ミツバチやはちみつがより身近に感じられるようになったんです。でも、最近は人間の営みによって数が減っていると聞いて、心配で。

タカアキ先生


そうだね。第3回で少し触れたように、たしかに1990年代以降、ヨーロッパやアメリカを中心にミツバチが激減していて、日本でも同じように数が減っているね。

ぬまる


ミツバチが減っていくと、養蜂の仕事にも大きな支障がでてきますよね。 はちみつが食べられなくなってしまう未来もあるんでしょうか。

タカアキ先生


うーん。少なくとも僕は、そうならないように養蜂を続けていきたいけどね!

ぬまる


美味しいはちみつを、未来の子どもたちにも食べさせてあげたいなあ。僕にも何かできることはありませんか?

タカアキ先生


たくさんあると思うよ!そのためにはまず、養蜂の現状と課題を知ってもらうことにしようか。

ぬまる


はい!よろしくお願いします!

今、世界のミツバチは減っている?

タカアキ先生


じゃあ、まずはクエスチョン。世界中で飼われているミツバチの数は50年前と比べてどのくらい減っていると思う?

ぬまる


うーん。難しいな。3割くらいでしょうか。

タカアキ先生


ははは。正解は、減っていない、です。

ぬまる


ええー!さっきミツバチが激減しているって話をしたばかりじゃないですか! いったいどういうことなんですか?

タカアキ先生

ごめんごめん。ちょっと意地悪だったね。
正確には、ミツバチがすごく減っている地域もあれば、増えている地域もあるってこと
たとえば、アジアやアフリカなどの国では、経済成長に伴って産業が活性化したことで、ミツバチの絶対数は増えているんだよ。だから、世界全体のミツバチの数でいうと、増加傾向ですらあるんだ。

ぬまる


うーん、なるほど。でも、だから安心ってことじゃないですよね?

タカアキ先生


もちろん。ちょっとここは正確にと思ってね(笑)

ぬまる


そうですよね、勉強になります。それじゃあ、あらためて。ミツバチが減っている地域では何が起こっているんですか?

タカアキ先生

うん、ここからが本題。
たとえば、欧米では1990年代の初めごろから「蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder, CCD)」といって、大量のミツバチが忽然と姿を消してしまう現象が起きているんだ。

ぬまる

あ!それは聞いたことがあります!アメリカでは2006年から2007年にかけて、ミツバチ全体の4分の1程度が急にいなくなってしまったんですよね。巣の周りで死んでいる様子もなかったとか…。

タカアキ先生

よく知っているね。そうなんだ、すごく不気味な出来事だよね。海外ではメディアでも広く取り上げられて、この件以降、ミツバチへの関心は高くなったと言えるかもしれないね。

ぬまる


なるほど。僕も、この印象が強かったので、世界中でミツバチが減っているイメージを持っていたのかもしれません。

タカアキ先生


うん。そういう人も多いんじゃないかな。日本でも同じような現象が起きて、実際に日本のミツバチも減っているからね。

ぬまる


CCDの原因は分かっているんですか?

タカアキ先生


それが、世界中で研究されているんだけど、結局答えは出ないままなんだ。

ぬまる


えっ。それじゃあ、養蜂家のみなさんも対策しようがないですね…。

タカアキ先生

そうだね。でも、CCDの発生以外にも、ミツバチが減ってしまう理由はいろいろあるんだよ。寄生虫や病気、農薬、蜜を取る蜜源の減少、気候変動といった問題が、複雑に絡み合っているんだ。

ぬまる


すごく規模が大きな問題ですね。ミツバチにとって、やっぱり今の地球は住みにくいということでしょうか。

タカアキ先生


残念だけど、そう言っても良いかもしれないね。だから、ミツバチの数が増えているとされる地域の養蜂家にとっても、決して他人事じゃないんだ。

ミツバチ、養蜂を取り巻く問題

ぬまる

タカアキ先生、世界のミツバチや養蜂家の方が置かれている状況が厳しいことは分かったんですが…具体的に想像できない部分も多くて。寄生虫や病気、農薬、蜜源の減少、気候変動のこと、もう少し詳しく教えてください!

タカアキ先生


そうだよね。それじゃあ、順番に解説していくね。まず、寄生虫と病気はなんとなく想像できるかな?

ぬまる


はい。ミツバチが弱っていく姿が目に浮かんでかわいそうです…。

タカアキ先生

本当にね。実は、僕たち養蜂家が日々一番気を使っているのは、この寄生虫や病気への対応なんだ。
ミツバチに寄生する「ミツバチヘギイタダニ」という寄生虫は、ミツバチの幼虫の体液を吸うことで繁殖するんだけど、これが厄介な虫でね。幼虫は途中で死んでしまうか、成虫になれても羽が縮れて飛ぶことができなくなってしまったりするんだ。多くの養蜂家がミツバチを守るために薬剤を使用して、それが当たり前のようになっているんだけれど、使い続けることが必ずしも良いとは限らないし、すごく難しいところだよ。

ぬまる


ミツバチを守るためとはいえ、人工的に作り出されたものは、自然や生き物に思いもよらない影響を与えることがありますよね。

タカアキ先生


そうだね。農薬の問題はまさにそれなんだよ。でも、農家さんも植物を害虫の被害から守るために農薬を使うのだから、そこの気持ちは一緒。

ぬまる


農家さんにとっても、大事に育てた植物は我が子同然ですもんね。

タカアキ先生

うん。だからこそ、農家は農薬を撒く場所や時期を養蜂家に共有したり、養蜂家は巣箱を設置する場所を工夫したりして、協力関係を築いているんだよ。上手くいくことばかりじゃないけどね。

ぬまる

そうだったんですね!以前、農家さんが育てる植物はミツバチにとって貴重な蜜源で、その植物にとってもミツバチは大切なポリネーター(花粉を運んで受粉させる生き物)だということを教えていただいたことを思い出しました。

タカアキ先生


素晴らしい!蜜源が足りていない中で、農家さんと協力することは養蜂家にとってすごく大事なことなんだよ。

ぬまる


それじゃあ、農家さんと協力していれば蜜源の問題は解決ってことでいいですか?

タカアキ先生

おっと。それはちょっと違うな。農家さんは減る一方ということもあるし、主な蜜源は養蜂場によっても違うからね。
たとえば、うちの養蜂場のミツバチが運んでくる花蜜はほとんどが自然の樹木のものなんだよ。でも、今は多くの土地が開発されて自然の蜜源はどんどん少なくなっているんだ。それから、蜜源は気候変動の問題とも関係してくるんだよ。

ぬまる


す、すみません!そう単純な話ではないですよね…。気候変動のことも教えてください!

タカアキ先生


もちろん。たとえば、最近は冬なのにすごく暖かかったり、いつまでも夏が続いたり、異常気象が起きているよね。

ぬまる


コートを着ていったのに、暑くて腕まくりしちゃうこともありますね(笑)

タカアキ先生

季節を間違えたかな?!ってなるよね。それって、植物も一緒でね。あんまり暖かいと、早すぎる時期に花を咲かせることがある。そうすると、本来ミツバチの数が一番増える時期に花が咲かずに、ミツバチは食事にありつけないということになってしまうんだよ。それから、花の時期に雨が続くのも良くないね。ミツバチは雨の中を飛べないから。

ぬまる


ええーー。気候変動って、思っていた以上に深刻な問題ですね…。

タカアキ先生

そうなんだよ。他にもあってね。
花蜜が枯渇する時期によく見られるんだけど、盗蜂といって、近くのミツバチの巣から蜜を盗むことがあるんだ。蜜を盗まれたミツバチの群れは弱っていって、根こそぎ略奪されると群ごと崩壊してしまったりするんだよ。

ぬまる


いろいろな問題が複雑に絡み合っていると言っていたのが、分かってきました。 ミツバチを育てるって大変だな…。

ミツバチを取り巻く問題
タカアキ先生

まあね〜。でも、その分、ミツバチが元気に飛び回って美味しいはちみつを作ってくれると、たまらない気持ちになるよ。こういう話を聞くと、ぬまるくんも、ミツバチやはちみつがより貴重で、ありがたいものに感じられると思わない?

ぬまる


そう思います!でも、結局僕がミツバチや養蜂家のみなさんのためにできることってあるのかなって。

タカアキ先生

ぬまるくんみたいに、ミツバチや養蜂のことを知ってくれる人が増えることは、僕たち養蜂家にとって、すごく心強い存在なんだよ!今起きている問題は、人間の日々の生活の積み重ねから生じていることだからね。

ぬまる


そういうものですかね…。自信はあんまりないですけど、みんなにこのお話を伝えていくことはできるかもしれません!

タカアキ先生


そうそう、その調子!

ぬまる


ところで、タカアキ先生。こんなに大変な仕事をどうして続けられるんですか?僕だったら、心が挫けてしまうかもしれません。

タカアキ先生


よくぞ聞いてくれました!今から話すと明日の朝になっちゃうかもしれないけど、いいかな?

ぬまる


ええっと、それじゃあ、また次回!!

次回からはいよいよ松本養蜂総本場のはちみつの”おいしさの秘密”に迫ります!お楽しみに!
<参考資料>
日本養蜂協会 https://www.beekeeping.or.jp/beekeeping/history/japan
芳山三喜雄「世界におけるミツバチ減少の現状と欧米における要因」 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030831164.pdf
門脇 辰彦「世界におけるミツバチと減少要因」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/48/8/48_8_577/_pdf/-char/ja

女将のはちみつレシピ

ぬまる


彩子さん、見てください!友達からりんごをいっぱい貰ったんです!

彩子さん


わあ、おいしそう♪私、りんご大好きなんです!

ぬまる


ちょうどよかった!彩子さんにもおすそ分けしますね。

彩子さん


ありがとうございます!では、これからりんごのはちみつコンポート風を作るので、一緒に食べませんか?

ぬまる


りんごのはちみつコンポート風…?

彩子さん

コンポートは果物を砂糖水で煮たもの。今回は、水で煮てからはちみつを絡めるのでコンポート「風」なんです。ではさっそく作ってみましょう!

りんごのはちみつコンポート風

りんごのはちみつコンポート風

■材料
りんご 2個
塩水 適量
はちみつ 大さじ2程度
シナモンパウダー 適量

■作り方
1.りんごは8mm程度にカットし、塩水にさらす
2.水気を切ったら、塩気は洗い流さずそのまま鍋に入れて、蓋をして中火にかける
3.1分ほど経って蒸気が鍋についてきたら、蓋を開けてかきまぜる
4.焦げ付かないよう、1〜2分おきにかき混ぜる
5.10〜15分ほど火にかけ、水分が飛んでいることを確認し、火を止める
6.はちみつを2周(大さじ2程度)と、シナモンパウダー適量をかけてよく混ぜる
7.粗熱がとれたら瓶に移して完成

<応用レシピ>
「アップルパイ風バゲット」
1.薄くカットしたバゲットに、バターを適量のせ、はちみつをかける。その上からりんごのはちみつコンポートを重ねて、シナモンパウダーを振りかける
 ※動画ではバゲットの代わりにチャバッタを使用しています
2.トースターで3分程度焼き、焼き上がりに追いはちみつをして完成

「ヨーグルト」
1.ヨーグルトの上にりんごのはちみつコンポートとお好みでミントを乗せ、はちみつをかける

こちらの手順はyoutubeでもご覧いただけます。
ぬまる


そのまま食べてもおいしいけど、パンにのせて追いはちみつをかけたら、ちょっとしたごちそうパンになりますね!

彩子さん


ヨーグルトにもぴったりですよ。ぜひおうちでも試してみてくださいね♪

教えて!タカアキ先生
発行:松本養蜂総本場
語り・監修:松本高明
文章・撮影:貝沼航
レシピ・文章:松本彩子
イラスト:むらやまちかこ
教えてタカアキ先生!連載一覧

第1回「どうして蜂が蜜を作るの?」
第2回「はちみつを採るのはかわいそう?」
第3回「ミツバチがいなくなると世界は滅ぶって本当?」
第4回「養蜂っていつからあるの?」
第5回「今、養蜂家が存続の危機って本当ですか?」(現在のページ)
第6回「どうして会津で養蜂をしているの?」
第7回「どうして松本養蜂のミツバチは健康なの?」
第8回「単花蜜を採るのは難しい? 」